2016年11月1日

東京番外地(九二)

 こういうコトなんです芸能の世界は。当たり前です、ドコの馬とも分からない奴を使って戴けるだけでも良しとしなきゃあバチが当たる。で稽古に入った、まさか自分が舞台に上がるなんて、考えてもみなかった。イヤービビリましたわ。物語は戦国時代劇。かつら、甲冑、初めてづくし。東映でも京都撮影所なら時代劇は専門だが、私は東京撮影所。ここは現代劇ばかりだったので、時代劇の支度所作なんぞ、からきし駄目である。 で、稽古に入ってまあ上手、下手位は判るけれど、舞台の専門用語が判らない。演出家先生に
「君の歩き方は侍じゃない。ヤクザの歩きになってる!」
皆吹くやらニヤニヤされるやらでイヤー参りました。東映でチンピラ専門に演って来たクセがすぐに出る。困ったクソーと思いつつ、必死になって演る(歩く)のですが気を抜くとスグに出る。そしてある日、場面は城を攻められ右往左往しながら、千姫(当時四才の杉田かおるチャン)を探す役処の侍役他に六・七人いて、「姫様〜!千姫様〜?」何ぞと叫びながら上手下手を入ったり出たり。と、先生
「オイ!君は出入ではいりが早過ぎる!も少し状況を考えて動け」
「ハイ、すんません!」
「ヤクザが出入でいりしてんじゃないんだぞ。」
「ハイ、すンマセン!」
又、ある時の場、静かな城中、何やら一人で下手から出て上手に引っ込みだけのシーンで歩いていると、
「君はどういう思いで歩いてるのか?」
「ハイ、上手に行こうかと……」
「何ニー?何だって!」
この時の言い訳をさせて頂くとつまり……。

小豆島映画村の新しい本屋。
オレの本も置いてるぞ!

石倉三郎