2013年5月1日

東京で(五十)

アパートに着いて、真っ暗な中を音をさせずにWサンの部屋へ。
ガーガー いびき をかいている、このWサンの鼾だけが当時の救いだった。
つまり、Wサンが鼾をかいててくれれば、それ程、音に気を遣わなくて済むって事だ。
腹ペコの腹に水をガブ飲みして、胃を騙して即、寝る。
コレの繰り返しである。
とにかく、5〜600円の金で半月を凌がなくてはならない。
朝7時位にWサンら会社員組は起きて階下の大家の女房
(腹が立つから「奥サン」とは云わない)が作った朝飯を取りに行って、
部屋で食べる。
Wサンは可哀相に俺が寝てるモンだから他の部屋で食べてる。
10時頃、起きるとアパートは誰もいない。静かなもんだ。

「小豆島の玉筋魚(いかなご)は旨い」


こういう時、決まって大阪を思い出す。
お袋は相も変らず飲んでんだろうな・・・。
大阪の友達たちは俺のことを馬鹿にしてんだろうなあ・・・。
嗚呼、どうして俺はこんなに阿呆なんだろうなあ。とにかく必ず陰々滅々となる。
そういう己の性根がイヤで、金も無いのに表に出る。
ブラブラと新宿のデパートまで歩く。
どういう訳かデパートが好きで、屋上に上がってミドリガメなんか見て、
「こいつ等、生きてるの判ってんのかなあ。何か意味があんのかなあ。」
なんて下らない事思ったり。
下の歩いてる人等を見て、「この人等とは、生涯会うことは無いだろうなあ。面白いもんだ人生は。」
とかネ、全く馬鹿の考え、休むに似たりだ。

石倉三郎