2013年1月1日

東京で(四六)

「サブちゃん、今日どうだったの、うまく行ったの?」
なんて見事なキレイな東京弁で聞いてくる。「イヤー!駄目でしたわ、カクカクシカジカ…」
「へえ〜、そりゃあ、金持ち相手の劇団だねえ。
だって劇団の研究生なんて、昔は、バイトしながらやってんじゃないの。」
「そうですよネ!あの劇団おかしいんですわ。」
「まあ、又どこか探して頑張んなよ。」
「有難うございます。やりますよ、俺」……なんて。

「お、出番か?」


あの人はいい人だったなあ。そんなこんなあって、或る日工場で餡を練ってると、
あるオバサンが、
「兄チャン、俳優になるんだって?」
いきなり聞かれて、「ハイ…エ,…ア……。」
「だったら、こんな処で私等と最中作ってたって仕方ないよ。」
「そんな事、云われなくったって分ってるヨ!ウルセー婆ーめ!」なんて思ってると、
「あのさあ、お兄チャン。東京には、青山って所があって、そこにはスターがいつも歩いて
いてさあ〜だから青山に行けばスターになれるよ、」
何をくだらネー事云ってんだ。
このクソ婆ー!!青山って処に行くだけで、スター?馬鹿か!素人って奴はコレだからイヤになる、
「どうして?」って聞くと
「だからさあ、そのスターサン達に弟子入りするのよ。だったら早いでしょ?」
「弟子入りしたからって、そんなモン何が早いんすか?」
「だって、スターの後押しが、あるじゃない。劇団なんかにお金払って、何年も貧乏するんだったら、
そっちの方が手っ取り早いでしょ」
「ハ〜、そんなモンですか?」
「そんなモンよ、世の中は」
なんて、おっしゃって他のオバサン達とケラケラ笑ってらっしゃる。

石倉三郎