2013年3月1日

東京で(四八)

すっかりクタビレちまって、腹は減るし喉は渇くし、
仕方無いから部屋に帰ると、最中屋の先輩と兄キの会社の先輩後輩等が、
ワイワイ飲んでいる。早速に輪に入ってやってると、Wさんが、
「サブちゃん、青山行ったんやて?あの青山にはユアーズと云う
スーパーマーケットがあるんや。そこに儂の友達が働いとんネン。
青山はカッコええ街やし、最中屋より良えんと違うか?友達紹介したろか?」
聞いて驚いた、ユアーズなら今日、店の前を通ったし、カッコいい店だった。
入口には芸能人スターの手形や足形を石膏で固めてあって、
アメリカはロサンジェルスにある、チャイニーズシアターを真似たそうだ。
店の前に従業員募集の貼り紙があった。最中屋よりグンと良い給料だった。
しかし、根が律義に出来ている俺としては、兄キの紹介で入った最中屋を
辞める訳にはいかないし、青山みたいに、カッコいいが、派手な感じの街は、
どうも気が引ける。しかし、給料は夜の部5時から深夜1時迄、食事休憩が
1時間で22,000円!!コレは最高だし最中屋でオバサン達と餡を練ってる
よりは余程良い。Wサンが紹介してくれるのなら募集もしてる事だし
100%入れるだろう。瞬時にいろんな思いが交錯して「考えさして貰うわ......」と答えていた。

「美味しい季節 小豆島のイカナゴ」


結局、その日からずっと考えて、10日程たったある日。
大家サンに、辞める旨を伝えた。まあ結果は簡単に辞める事は出来たけど、
部屋はもう少し置いて欲しいと話したら、奥サンが、
「それは駄目よ!Wサンにも悪い!すぐに出て貰わないと、世の中そんなに
簡単なものじゃないのよ、分る?」何ンとなくそんな予感はしてた。

石倉三郎