2017年2月1日

東京番外地(九五)

 全く!二十五、六の歳の青二才が何が酒が旨いだ!ビール以外の味など知らんくせに!まあ仲間と只、ワーワー騒ぎたかったのですヨ!しかし先輩仲間の酔った一言なんてのが、結構勉強になったんですよ。やっぱりノコノコアルバイトなんかしてる時じゃねえ!って思ってましたな。そんな時、バイト先に次兄から電話で、あ、ここ迄書いてきまして、思い出しました。つまり本番中じゃなく、稽古中に電話があったんだ。
「オフクロが倒れた!医者は危ないと云ってる。お前、スグ帰れ!帰ってこい!」と。しかし、この芸の世界で親の死に目どころか、己が死んでも仕事は仕事の世界。駄目に決まっている。しかも美空ひばりサンだし、イヤひばりサンとか何ンとかより親の死に目に会えないのが芸能界。
「イヤ、ムリや」
「何がムリじゃ、お母ン死ぬんやど!」
「今、芝居の稽古中や!」
「阿呆か!どうせ役なんかついてないやろ!お前一人位かけたかて、何でもないわい!」 確かに兄キの云う通りだ。しかし…それでも…
「判ったマネージャーに相談する。」直ぐにマネージャーに話したところ、あんのじょう
「石倉サン、それは無理。駄目ですよ。」
「しかしまだ稽古始まったばかりだし、役も付いてないし何ンとか。」
「イヤ、駄目です!事務所的にも具合が悪い。あなた一人の問題じゃないですヨ!」
「判りました。じゃコマの制作部に電話します!」
「それは止めてよ!あんた何考えてんの!」
「とにかく今急いでますんで又」あーどうしよう!参ったなあ!

もう付き合いも長いからなあ

石倉三郎