1962年生まれ。長崎県出身。
92年、初の劇場公開映画『二十才の微熱』は、劇場記録を塗り替える大ヒット記録。
2作目の『渚のシンドバッド』(95’)は、ロッテルダム国際映画祭グランプリ他、数々の賞に輝いた。
人とのつながりを求めて子供を作ろうとする女性とゲイカップルの姿を描いた3作目『ハッシュ!』(02’)は、第54回カンヌ国際映画祭監督週間に正式招待され、世界69各国以上の国で公開。国内でも、文化庁優秀映画大賞をはじめ数々の賞を受賞。
6年振りの新作となった『ぐるりのこと。』(08’)は、女優・木村多江に数多くの
女優賞を、リリー・フランキーには新人賞をもたらし、その演出力が高く評価された。
7年ぶりの長編となった『恋人たち』(15’)は、第89回キネマ旬報ベスト・テン第1位を獲得したほか、数多くの映画賞に輝いた。
2018年11月27日
現在、絶賛公開中の映画『鈴木家の嘘』は、僕の『恋人たち』の助監督も務めてくれた野尻克己監督のデビュー作である。まだ肌寒い今年の4月の撮影中に現場を訪ねた。その日は、出演者の岸部一徳さん、 原日出子さん、 木竜麻生さん、 加瀬亮さんの主演が揃い踏みということで陣中見舞いで伺ったのだが、懐かしさもあって岸部さんにぜひお会いしたかったからだ。
岸部さんと初めてお会いしたのは27年前。『二十才の微熱』で新人監督賞を頂いて大阪映画祭へ訪れた時だった。座敷敷きの控室へ入ると誰もいない。ふと左手の隅へ目をやると真田広之さんがお一人でおられた。真田さんは、わざわざ居住まいを正されて僕に対してキチッと頭を下げられた。まだ映画監督としての自覚などない昨日まで自主映画の兄ちゃんだった僕の顔などご存知なかったはずである。僕は、軽い会釈だけでまともなご挨拶も返せなかった。隅っこに座って恐縮していると、岸部一徳さんが、ふわっとした空気に乗ったように入って来られた。すると、僕の前に何の構えもなく座られて「ベルリン映画祭行ったんでしょう?」と実に自然に話しかけられた。岸部さんは、『死の棘』でカンヌ映画祭へ行かれた後でもあったので、しばし映画祭に関して談笑させて頂いた。
その後、授賞式の下りは本連載『映画賞』の回で詳しく書いてあるのでお読みいただきたいが、真田さんや岸部さんの態度は僕の中で年月を経ても大事な思い出としてある。
ご挨拶した折、その話をしたら実に詳細に覚えてらっしゃって、しばし楽しく思い出話をさせていただいた。また、現場へお伺いする直前に見た『団地』(阪本順治監督)のメイキング映像に関してもお伺いした。『団地』『鈴木家の嘘』共に低予算映画である。
「岸部さんて、こんな低予算の映画おやりになるんだと驚いたんです」と尊敬の念も込めて言うと、「いや、日本映画は今こんなものだよ。脚本が良かったからね。」と微笑まれていた。
その数日後、俳優の柄本明さんに某所でばったりお会いした。柄本さんの第一声は、「今、日本映画どうなの?」だった。また、女優の倍賞美津子さんも自作の『恋人たち』が話題になった時に頂いたお電話の第一声は、「監督、いい事やってるわね」。その意味は、若い無名の役者を使って活躍の場を与えることを指している。「私たちがやれることは、若い人を応援することなのよ」と激励いただいた。
『鈴木家の嘘』に関しては、岸部さんも積極的に宣伝活動もされていらっしゃるようだが、柄本さんや倍賞さんと同様に、若い才能を支えていくこと、日本映画全体のことを常に考えていらっしゃることが分かり感動すると同時に改めて頭が下がった。27年振りの再会、いい時間でした。