1962年生まれ。長崎県出身。
92年、初の劇場公開映画『二十才の微熱』は、劇場記録を塗り替える大ヒット記録。
2作目の『渚のシンドバッド』(95’)は、ロッテルダム国際映画祭グランプリ他、数々の賞に輝いた。
人とのつながりを求めて子供を作ろうとする女性とゲイカップルの姿を描いた3作目『ハッシュ!』(02’)は、第54回カンヌ国際映画祭監督週間に正式招待され、世界69各国以上の国で公開。国内でも、文化庁優秀映画大賞をはじめ数々の賞を受賞。
6年振りの新作となった『ぐるりのこと。』(08’)は、女優・木村多江に数多くの
女優賞を、リリー・フランキーには新人賞をもたらし、その演出力が高く評価された。
7年ぶりの長編となった『恋人たち』(15’)は、第89回キネマ旬報ベスト・テン第1位を獲得したほか、数多くの映画賞に輝いた。
2016年8月1日
どこで手にしたのか忘れたが、そのページを開いたとき、本屋で「うわっ!」と声を出したことを覚えている。ページの中央から、海面を割ってザトウクジラがもんどり打って飛び出して来たのだ。
それは、いわゆる、しかけ絵本と呼ばれる物で、クジラが立てた細かな飛沫が、全身に降ってくるような臨場感を感じた。平面から立ち上ってくる別世界は、立体という以上に何か魔法めいたものすら感じてすっかり魅了されたのだった。
以来、本屋へ行くと、真っ先に児童書のコーナーに行っては探すのだが、しかけ絵本は圧倒的にその数が少ない。そのうち、ヤフオクで物色するようになり、たどり着いたのが万創(バンソウ)のとびだす絵本だ。
万創とは、70年代の第二次怪獣ブームに呼応するように、怪獣やアニメの〝とびだす絵本″を発売して大きくなった会社らしいが、僕の小さい頃は、〝とびだす絵本″は、超合金と同じくとても手の届かない本だった。その渇望感も手伝って、目に止まると落札していた。しかし、本来は子供が遊んで楽しむものなので、状態のいい物は少なく、仕掛けのほとんどは壊されていたり、落書きがあったりする。それでも、初期のウルトラ怪獣物などは非常な高値で取引されていた。
そんな時、この連載でも触れた画家の故・小松崎茂さんの自伝映画の企画を進める中で、一番弟子の根元圭助さんのご自宅へ取材へ伺う機会があった。
小松崎氏といえば、戦後、子供達を熱狂させた絵物語や、サンダーバードのプラモデルの箱絵の作者といえばお分かりだろうか?。氏の足跡をお聞きする中で、書斎へと案内していただいた。すると、そこには万創のとびだす絵本が!。創刊から全て新品の状態でずらりと並んでいるではないか!。40~50冊はあっただろうか?。
僕は、取材も忘れて興奮したが、さすがに未開封のものを「見せてください!」とは言い出せなかった。
聞けば、とびだす絵本は、小松崎氏のお弟子さんが多く描いてらっしゃるとか。氏の作品も、ジェット機の轟音や軍艦の咆哮が聴こえてくるような臨場感があるが、その遺伝子は、とびだす絵本の楽しさに受け継がれていたことに納得だった。
中でも僕のお気に入りの画家さんは、伊藤展安先生や渡辺正美先生だったのだが、一連の取材の中で、伊藤先生にお会いできたのは感激だった。
伊藤先生が手がけられた中でも一番好きな『帰ってきたウルトラマン』のとびだす絵本を持って取材へ伺った。本をお見せして、ファンであることを熱烈アピールしたのだが、当のご本人は、当時は忙しくほとんど覚えてらっしゃらないという。そして、かってのご自分の絵を眺めながら少し複雑そうな表情をなさっていたのが意外でもあった。
残念ながら、その映画の企画は実現することはなかったが、根元先生や、伊藤先生にお会いし、小松崎氏の生きた時代のお話をお伺いすることが出来たのは貴重で楽しい時間でした。
ヤフオクでとびだす絵本を落札していた時は、自分への言い訳として、「もしお金に困ったら、いつでも手放す覚悟がある。自分は、物には縛られない」などと思っていた。この数年の間に、いよいよやばいぞ、という時が何度かあった。しかし、今だにとびだす絵本だけは手放せないでいるのだ。
(紹介した絵本は、『かがく しかけ絵本 クジラ 力持ちの海の巨人たち』(大日本絵画))