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東京は怖い2019年07月09日

 東京にいると色んな人がドアを叩く。深夜にお笑い番組を見ながら呑気に笑っていたら、「さだ!さだ!」と叫びながら泥酔したおっさんが部屋に乱入してきた。恐らく逃げた女を探し回っていたのだろう。僕と目が合った瞬間、固まった表情のままドア閉めドタドタと慌てて出て行った。玄関共同の安アパート時代の話だ。
 マンション住まいになって間もなく。チャイムが鳴って出てみると、ぼさぼさ頭の作業服姿の男が立っていた。東京都水道局を名乗る男は、「無料で浄水器を設置してます。近所でもこれだけ設置済です」と名前と印鑑が押してある回覧板のようなものを見せて言った。断ると、「無料ですよ。水道局ですよ」としつこく粘る。「それでも結構です」と言うと、信じられないといった風に首を傾げて不機嫌に帰っていった。部屋に戻ってテレビを点けると、水道局を名乗る浄水器詐欺が頻発している事への注意喚起を昼のニュースでやっていた。ぞっとした。
 ある時は、東京ガスを名乗る青年が訪ねてきた。通路のガスメーターがある扉を開けて「一酸化炭素が大量に漏れている」と言う。「通路は致死量のガスが充満している。ドアの隙間から部屋に入ると大変なことになるので気を付けてください」と穏やかな笑顔で帰っていった。驚いて東京ガスに問い合わせると、「東京ガスでは、ガス漏れがあればすぐに対処します。放置したまま帰ることはありません。また、最初に職員は身分証を必ず提示します」との答え。そういえば、東京ガス風の制服だったような。身分証の提示もなかった。では一体あれは何だったのだろう?。ただの制服フェチプレーだったのか?。
 極め付きは自宅前の神社で起こったバラバラ殺人事件である。起床すると表が騒がしい。窓から外を見ると、神社の境内、道路に警察とマスコミで騒然としていた。何事かとテレビを点けると、神社の境内に男性の切り取られた性器が置いてあって事件が発覚。バラバラ殺人として周囲を遺体捜索しているという。
 ワイドショーではプロファイリングの専門家と称する医師が、「犯人は、30代の孤独な同性愛者です」と断言していた。性器が切り取られていたことで、男性性器に異常な執着がある=同性愛者という短絡を堂々と垂れ流すのはいかがなものか。テレビの前で、「30代の孤独な同性愛者って俺じゃん。いい加減なこというなよ!」と突っ込んでいたら、連日刑事が聞き込みにやって来た。
 事件発覚の前夜、僕が不審な車を目撃したこともあって捜査には協力したのだが、先のワイドショーの件が頭に残っていて、「もしかして疑われてるのかも?」と思うと妙にどぎまぎしてしまった(笑)。
 被害者は中国人男性で、すぐに身元は判りコンビニにも顔写真入りで情報提供を求める張り紙が張られたが、結局は迷宮入りで終わったと聞く。当時は、歌舞伎町のヤクザを追い出す中国マフィア台頭との報道もされていた時期だったので、中国人同士の抗争の見せしめと認識していたが、事件発覚までの経緯を振り返るとその認識を改めざるを得ない。
 発覚三日前には、境内に剃られた頭髪が置いてある。二日前には、剃られた陰毛が置いてある。そして、三日目に切られた性器が置いてあり小学5年生の男の子が発見して通報するのだ。内輪のもめ事の末の犯行だとしたらそんな手間暇をかける必要などない。手早く人目につかず遺体を処理すればいいのだ。これは、一般的には『テロの準備行為』と呼ばれるもので、犯行を起こした後に警察やマスコミ、世論がどう動くかをテロリストが観察する行為だという。この事をニューヨークやパリに住む友人に話すと、「日本やばいね」と即答されるが、日本の友人に話してもピンとくる人は少ない。報道でもほとんどベタ記事扱いだが、全国で神社に糞尿や油を撒く事件は多発している。墓や宗教施設への攻撃は、民族の根幹に触るような行為である。どこを攻撃すれば相手が傷つくか敵はよく熟知しているのである。
 人を殺して毛を剃り、遺体をバラバラにして毎晩ある場所にひっそりと置いては反応を見る。このような黒い敵意が僕たちの周りに息を潜めて存在していることが何より怖い。

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