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リリー・フランキー2013年9月1日

 今のところ僕の中での゛いい男NO,1〝はリリー・フランキーである。
 以前、酒の席で聞いたことがある。「リリーさんって何?」と。イラストレーター?、小説家?、俳優?。本人曰く、「全部やってるけど、どの世界でも認められてないよ。何だろうね?」だった。
 先日、つかこうへい脚本、三浦大輔演出、リリー・フランキー主演の『ストリッパー物語』を観てきた。伝説ともいえる75年の初演版はもちろん未見だが、その素晴らしさは聞き及んでいた。その主役、ストリッパーのろくでなしのヒモがリリーさんの役どころである。
どうしようもないろくでなしのヒモでありながら、どうしようもなく女を愛している。何ともやるせない男の姿を演じていた。つかさんが書いた独特の長セリフをまるで自分のことのように語るリリーさんに驚愕した。ますます役者として上手くなっていくな、と役者でもないのに嫉妬さえ感じたほどだ。
 初めてリリーさんに会ったのは、リリーさんが『ハッシュ!』に映画評を寄せてくれたことがきっかけだった。映画のトークショウに来てもらったり、自宅へ遊びにいかせていただいたり。しかし、その後、僕が体調を崩していたこともあり5年近くぷっつりと交流は途絶えてしまっていた。
 『ぐるりのこと。』という映画を撮ることになった。法廷画家のいい加減な男と妻の話である。最初に主人公の旦那のキャスティングで浮かんだのはお笑いの人である。でも、候補に挙がる人が今一つ感があった。そんな時、リリーさんが書いた小説『東京タワー』が送られて来た。『ベストセラー!』『絶対泣ける!』、そんな噂は耳に入っていたが読もうとは思わなかった。作家さんが作り上げた別の世界に引っ張られるので、映画の制作中は一切、小説やDVDの類は見ないようにしているからだ。
でも、その時は何だか惹かれるようにページを捲ってしまった。自分で「いつも読まないのに読んでるな俺」と不思議に感じながら。気づくとあっと言う間に読み終えていた。本の内容そのものにも感動していたが、それよりも「ここにカナオ(主人公の名前)がいる!」と確信していた。
 それから数カ月、出演依頼はしたものの寝ても覚めても返事がない。ようやく返事をもらったのは4ヶ月後であった。本人の弁は、「役作りのため山で修業していた」・・そうである(笑)。本当のところは、「自分のような素人が橋口さんの映画に出て迷惑をかけないだろうか?やれるだろうか?」と真摯に考えていただいていたらしい。
 妻役は、木村多江さんに決まった。しかし、木村さんのスケジュールが半年先まで空いていないという。すでに押さえてあったリリーさんのスケジュールとは合わない。リリーさんといえば、当時は『東京タワー』のベストセラーのために時の人であった。また撮影スケジュールをずらして、リリーさんのスケジュールを2カ月押さえなければならない。普通に考えたら、ほとんど不可能と思える事態だった。でも、「リリーさん、木村さん、この二人以外、主役は考えられない。どちらが欠けても成立しない。それぐらいなら、映画を作らない方がマシだ!」。
 僕は、すっかり途方に暮れ、また切羽詰まってリリーさんの所へ行った。すがるような気持ちでリリーさんにスケジュールの話を切り出した。隣でマネージャーさんが、「その時期はダメですね」なんてクールに言っている。目の前真っ暗なのは僕である。
すると、「橋口さんが楽しく撮ってくれることが、僕にとっても幸せなんだから気にしないでいいよ。大丈夫だから」とリリーさんが言った。
その時、僕は、「ああ、この男は逃げないんだ」と思った。そして、初めて主人公の妻が、何故いい加減なカナオという男と周囲の反対にもめげず結婚したのかが分かった。「この男は、あたしに何があっても見捨てない」その確信があったからなんだ!。
自分で作り上げた人物の本当のところの気持ちが、リリー・フランキーを前にして、やっと分かったのだった。
 何が本業なのか分からない、ふにゃふにゃといい加減に見える男の中にある折れない芯。リリー・フランキー、いい男である。そりゃモテるわ。

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